The Icons - The Skinny Jean

THE ICONS

スキニーデニム

エディターやセレブリティがストレートデニムに夢中になった結果、ついにスキニーデニムは「流行遅れ」という不名誉な烙印を押されることになってしまった。だが、ファッション評論家なる人々から冷たい目で見られようとも、密かに買い続ける愛好家が決して少なくなかったことも、みなさんはご存知だろう。そう、スキニーデニムは静かに、しかし着実に復活を遂げ、プラダやサンローランなど影響力があるメゾンのコレクションに再び登場したのだ。デニム史上、最も物議を醸したタイトなシルエットが、なぜマーケットから消えないのか? ペイトン・ディクスがそのワケと魅力に迫る。

Wedding pictures
Blue cashmere sweater

この5年間、ファッション界はスキニーデニムをめぐって二分されており、それはエルメスのバーキン、ミュウミュウのミニスカートのセットアップに次ぐ重大なトピックとして界隈を騒がせている。脚にピッタリとフィットするこのデニムの話題は、Z世代をも巻き込んで、今やTik Tokでも「スキニーデニムはもう時代遅れなのか?」と熱い議論が交わされている。しかし、賢いファッション愛好家は、この議論をあくまで静観している。なぜならデニムのトレンドは回り続けていて、たとえ一時は下火になったとしても、いつかは必ず戻ってくるからだ。そして何より、デニム選びに大切なのは着る人の体型であり、好みだから。言ってしまえば、大抵の女性は自分の体にフィットするスタイルを選びたいので、10万人ほどのフォロワーをもつ19歳そこそこのTik Tokerの意見なんて、大した影響力は持たないのである。

スキニールックはゼロ年代のカルチャーに結びつけられることが多いが、その起源はなんと1800年代にまで遡る。当時のフランスの男性の間では、着心地の良さと乗馬時の動きやすさから、身体にフィットする衣服が流行。それを自身のスタイルに取り入れたのが、オードリー・ヘップバーンだ。そのボーイッシュなルックはやがて彼女を象徴するシグネチャーのひとつとなり、のちに60年代のモードガールの支持を得て、ファッションにおける定番ルックへと進化した。さらに数十年が経ち、アメリカのロックバンド、ザ・ストロークスがその人気に再び火をつけるに至る。しかし最近はエモ(ロックミュージックの亜種)ルックやインディーズ風の不良ルックなど、もはや下火となってしまったジャンルのファッションの中で、何とか生きながらえている状態にあった。

ここにきてスキニーデニムはトレンドに再浮上したが、デニムトレンドの移り変わりの速さを考慮すると、それは十分“想定内”の出来事だったと言えるだろう。私にとってスキニーの復活劇は受け入れ難い(なぜならダイアン・キートンのバギースタイルに傾倒しているから!)が、ここに来てゼロ代初頭のカルチャーが復活することは、ある意味安心でもある。なぜなら、それはとてもシンプルな時代の再来だから。当時人気を誇ったアヴリル・ラヴィーンは今再び時代の寵児となり、ゼロ年代を象徴するバンドであるパラモアも、このタイミングで新たなアルバムをリリース。スキニーデニムもトレンドにカムバックしている。

2023年1月、リーバイ・ストラウス社のCEO、チップ・バーグは、同社の第一四半期の収支報告会の場において、社員を目の前に「スキニーデニムは決して廃れない」と語った。非常に思い切ったコメントであるが、その後、彼はこう付け加えている。「確かに今年の第一四半期の収益の半分は、ルーズデニムとバギーデニムの売上だ。しかし、最も売れたレディースデニムのモデルは、311と721。つまり、スキニーデニムが姿を消すことなどあり得ないということだ」。ちなみに311はローワー・ミッドライズのクラシックなスキニーシルエットであり、721はそのハイライズバージョンである。

Blue cashmere sweater

さらに最近の話でいえば、2023-24年秋冬コレクションでは、セリーヌやプラダ、サンローランを含む数々のブランドのランウェイに、身体にフィットするシルエットのデニムが登場した。特に2022年12月にロサンゼルスのウィルターンシアターで行われたセリーヌのショーは、スキニーデニムを多用。イギー・ポップのボーカルが響く中、グランジにインスパイアされたルックがランウェイに登場し、スキニールックの再来を印象付けた。私のことが信用できない人も、パンツルックのスペシャリストであるエディ・スリマンのことは信用できるだろう。

昔も今も、変わらずスキニーシルエットを愛用しているファッションアイコンは確実にいる。たとえばヴィクトリア・ベッカムが投稿したTik Tokのビデオには、スキニーデニムを穿いたヴィクトリアが夫であるデヴィッド・ベッカムと共に映っている。エマ・ワトソンはファッションウィークにスキニーデニムルックで参加。ヘイリー・ビーバーは裾をニーハイブーツにタックインして穿きこなし、カーラ・デルヴィーニュは今もユニフォームのように愛用している。どんなセレブリティでも、パパラッチが撮影したセレブリティの写真を探せば、1枚や2枚はスキニーデニム姿のものが見つかるに違いない。

私がスキニーデニムに屈することは決してないと思うが、だからと言って読者に嘘をつくことは絶対にない。読者の方々は皆、正しい情報に基づいてショッピングをしているだろうし、その際、インフルエンサーによる口コミの情報だけを頼りに買うものを決めるなどということも、きっとないだろう。その上で、伝えておきたい。スキニーデニムは復活した。いや、そもそも廃れてなどいなかったのだ。

では、私たちは一体何を心配しているのだろうか?それは、ローライズデニムの復活である。リーバイスのバーグ CEO は、ミッドライズデニムの売上は伸びていると言った。それはつまり、ウエストの位置が下がってきているということである。「ヒップハングデニムというジャンルにおける我が社のポジションは、まだ確立されていない。だが、今、ミッドライズデニムはかなり注目されている。そして長年業界の主流であったハイライズからミッドライズへのシフトは、この先ますます顕著になることだろう。ひょっとすると、ミッドライズからローライズへと、さらにウエスト位置が下がってくる可能性もある」。ゼロ年代初頭のデニムトレンドの復活劇を背景に、この恐るべき「ローライズ」が再びメイントレンドに浮上するかもしれない。皆さま、どうぞご注意を。