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THE ICONS

THE BOYFRIEND SHIRT

ロンドンを拠点とするクリエーティブエージェンシーTANK FormのCEOにして『TANK Magazine』のディレクターも務めるキャロライン・イッサ。ボーイフレンドシャツをこよなく愛する彼女が語った、その魅力とは?

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Woman in workwear clothing

映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘップバーンが素肌の上に紳士用タキシードシャツだけを纏った姿を見た時、私は仕立てのいいオーバーサイズのシャツが女性にとってスタイリッシュなワードローブになり得るのだということを確信した。白いコットンのシャツはカフスが長めでカラーレス、胸当てと黒ボタンがほどよくコントラストを利かせている――、まさにテーラード技術の結晶だ。ノンシャランでありながら、色香と伝統を表現したこのスタイルこそ、映画が公開された1961年当時の男性らしさと女性らしさに対する既成概念が打ち破られた瞬間だ。「あら、このシャツ?昨日の夜の大冒険のあと、床に脱ぎ捨ててあったのを拝借したの」――、そんなセリフが聞こえてきそうなシーンに魅せられた私は大振りのシルエットでパリっとしたコットンのシャツを買い求め、スタイリングの主役として活用してきた。

職人が手掛けた伝統的な男性用スーツの定番を女性のコーディネートに取り入れるのはとても楽しい。サヴィルロウ仕立てのスーツの下にアイロンをかけていないシャツを着るだけで、ウォール街に蔓延する権力主義に一石を投じているような気分になるからだ。パーティでドレスを着たくなければ、大振りのイヤリングをつけてオーバーサイズのシャツを第一ボタンまできっちり締めて襟を立て、ボリュームのあるスカートに裾をインすれば、ドレスに負けない存在感を放つこともできる。事実、シャロン・ストーンは1998年のオスカー授賞式に白シャツで登場。胸元を大きく開け、ライラック色のサテンスカートにタックインするという大胆なスタイルは今でもはっきりと覚えている。最近では、ジェナ・ライオンズのオーバーシルエットのオックスフォードシャツスタイルが印象的だ。ボタンは留めずに裾はジーンズにイン、焼けた肌にジュエリーを纏う――、パリッとしたコットンの風合いはそのままにプレッピーの雰囲気を消し、センシュアルな着こなしになっているのだ。

Woman in workwear clothing

ストライプシャツも中毒性が高く、ブルーのピンストライプのボタンダウンシャツは色味やストライプのピッチが異なるものをたくさん持っている。でも、白シャツとは着こなし方が違い、ボーダーTシャツに重ねてカーキのパンツにタックインしたり、ボタンを襟元まできっちり留めつつ、下の2つだけは外して、プリーツのロングスカートのウエストあたりで裾を結んでトップにボリュームを持たせている。ベビーピンクやレモン色といったパステルカラーのシャツも、昼夜問わず活躍する便利なワードローブとして欠かせない。着こなしのお手本としては芸術家のジョージア・オキーフがおすすめ。彼女の何気ない袖のまくり方や襟の見せ方、色のバランスのとり方はスタイリングにおけるマスキュリン&フェミニンのバランス感覚のヒントが詰まっているからだ。

オーバーサイズシャツは多少高価だとしても、着回しが効くので費用対効果は抜群だ。今ではマルニアルチュザラザ ロウヴィクトリア ベッカムロクといった人気ブランドはどれも個性を主張するボーイフレンドシャツを発表している。アンティークローズ風の色、ターンオーバーカラーで肩にサイドボタンをあしらったもの、赤、ピンク、バーガンディを使った変わり種のピンストライプまで揃っているから、きっと欲しいデザインが見つかるはず。定番アイテムでありながら新しいデザインが出てくるなんて、ひと昔前なら誰にも想像がつかなかっただろう。

実は最近、ちょっとしたカスタマイズにも挑戦している。例えば左前身頃の隅あたり、ジャケットに隠れる場所に自分や愛する人のイニシャルを刺繍するのだ。紳士用のシャツには持ち主の名前を入れるのは洗濯した時に誰のものかをわかるようにするためだが、私の場合は利便性よりも刺繍を入れることで自分の魂を込め、そのシャツが単なる洋服ではなく自分の一部であるように感じるためだ。そう、私にとってボーイフレンドシャツとは、伝統の素晴らしさを再認識させてくれる上に、人生の冒険に踏み出す時に、いつでも私のそばに寄り添ってくれるパートナーのようなアイテムなのだ。改めて、オードリーに感謝を捧げたい。