THE ICONS

THE CARDIGAN

カーディガンは永遠の定番であり、イヴ・サンローランやココ・シャネルをはじめ、名だたるデザイナーに愛されてきた「ニットのチャンピオン」ともいうべき存在だ。長年にわたりカーディガンを愛用しているスタイルジャーナリストのエマ・エルウィック=ベイツを案内人に、カーディガンの魅力を探ってみたい。

Wedding pictures
Woman in workwear clothing

『カーディガン』というタイトルの歌を作ってくれたテイラー・スウィフトには本当に感謝している。ただ、控えめなデザインのカーディガンはポップの化身ともいうべき歌姫にはふさわしくないと思う。もちろん私にとっても。デザインが洗練されていてはじめて、天候やシーズンを問わず、私のワードローブのメインアイテムとなるのだ。今、私はこの原稿を“考え事用カーディガン”を着て書いている。カイトのゆったりとしたシルエットのカシミヤカーディガンなのだが、ここ5年ほどですっかり手放せないアイテムになってしまった。

今は私も英国に戻っているが、指先まで隠れるほど袖が長いこのカーディガンにも、気づけば穴が空いてしまっている。リブ編みの裾も張りを失っているが、この着古し具合は若かりし日に憧れたあのスタイル――、オーバーサイズのカーディガンをまとったカリスマ、カート・コバーンのスタイルを思い出してしまう。生前の彼がMTV Unpluggedのセッションでそのカーディガンを着ているのを見て、私はリサイクルショップからハイストリートのブティックまで、靴がすり減るほど歩き回って似たようなカーディガンを探したものだ。そのカーディガンの実物は2015年にオークションに出されていたが、なんと13万7,500ドル(約1,500万円!) もの高値が付けられていた。それでも、彼がもたらしたポップカルチャーへの影響力を考えれば安いものだろう。結局私は、エディ・スリマン時代もアンソニー・ヴァカレロ時代も、サン ローランで似たデザインのカーディガンが出るたびに、つい買ってしまっていた。もう新しいファッションなど出てこないとわかっているからか、過去にエネルギーやインスピレーションを得ることが、どうしてもやめられないのである。私の場合、ファッションにまつわるすべての根源は青臭い10代の思い出にあるのだ。

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そもそもカーディガンはとても控えめな存在である。1920年代、ガブリエル・シャネルは女性たちの間でカーディガンを流行らせたデザイナーとして知られている。彼女は当時主流だったプルオーバータイプのニットは着る時に髪が乱れてしまうといって嫌い、フロントボタンを開け閉めするカーディガンを好んだと言われている。機能性はもちろん、デザインという点でも確かにカーディガンに軍配が上がるだろう。

ロックダウンの期間中にアメリカ版『Vogue』誌からアーデムのデザイナーにズームインタビューをする仕事の依頼を受けた私は、生まれて初めて上品なデザインのカーディガンを購入した。襟元に後光を思わせるパール飾りが施されたアーデムのカーディガンは、エレガントなケーブルニット製で、着心地が良いのにドレスアップした気分にもなれる逸品であった。テーラードジャケットに負けず劣らず、プロ仕様かつビジネスシーン向きであり、きちんとした佇まいや穏やかなイメージのカーディガンである。それをどう形容すべきかは、ミッシェル・オバマに聞いてみるのがいいだろう。ようやく世界がもとに戻りつつある今、合わせるボトムスは、デニムをやめて、シガレットパンツかイブニングスカートに変えた方が良いだろう。

私にとってカーディガンは仕事を頑張った時にもらえるご褒美のようなものだ。たとえばロエベのカウチンカーディガンは冬の寒い日には薄手のニットの上に羽織ってザ ロウのサングラスを合わせる。カラフルなアラヌイのジャカードニットカーディガンは白いポロネックのインナーと組み合わせて数々のファッションウィークに出向いたり、シェルターアイランドのビーチでは夕暮れ時に水着の上に羽織ったりした。そういえば、このカーディガンは息子が無事生まれて退院するときにも着た記憶がある。

色鮮やかで凝ったデザインのカーディガンは旅行にピッタリで、あちこち一緒に旅行しているので余計に手放せなくなるし、普段使いももちろんOKな万能選手だ。ウォッシュドデニムや白いTシャツなど定番アイテムに合わせれば日中のお出かけ着になるし、スリップドレスやシルクのパジャマスーツの上から羽織ればナイトアウトにも活用することができる。

カーディガンの何気ないシルエットには様々なトレンドにマッチする普遍性がある。スマートだけどどこかルーズ、クラシックなのにストリート風でもあって、まさに永遠のスタイルと言えるだろう。ハリー・スタイルズが着ていたJW アンダーソンのパッチワークカーディガンはTikTokで編み物好きを熱狂させ、ついにはロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館のパーマネントコレクションに仲間入りしてしまった。ちなみに私が次に狙っているのは細身のVネックのカーディガンだ。同じく細身のベルトをして、リップモチーフとボウリングバッグ、プリーツスカートが印象的だったプラダの2000年の春夏コレクション風に着こなすつもりだ。当時ミウッチャはこのコレクションを「ファッションのABC」と呼んでいた。Cはもちろん「Cardigan (カーディガン)」の「C」に違いないと私は今でも信じている。