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THE KAFTAN DRESS
英国のファッションWEBメディア『STYLIST』のファッションフィーチャーエディターを務めるビリー・バティアは、カフタンドレスに長年魅了されてきた。ビーチリゾートではおなじみのカフタンドレスを、もっと身近に、ファッショナブルに楽しむコツをご紹介!
Words: Billie Bhatia


『VOGUE』誌エディターを経て『HARPER’S BAZAAR』誌の編集長を務めたダイアナ・ヴリーランドは、カフタンドレスは「美しい人にとってファッショナブル」と断言したという伝説がある。「ファッショナブル」と「美しい人」はカフタンドレスを抜きにしても私の人生における最優先事項だ。例えばロンドンのテート・ブリテン美術館で開催されるイベントのレッドカーペットは、女性たちのセンスが試されるビックイベントだ。ある年のイベントで、私はイギリスのブランド「GILES」のアンニュイなグレーのシルク製カフタンドレスしか、この場にふさわしい衣裳は思いつかなかった。中央に繊細な鳥が飛び交うようにプリントされ、デフォルメされた袖が特徴のこの一着。身体の上をサラサラと音を立てて流れていくような優雅な趣が自分を「ファッショナブル」で「美しい人」のステージに押し上げてくれるのだ。このイベントこそが、私がカフタンドレスにハマるきっかけだったように思う。
カフタンドレスの起源は紀元前600年前後のペルシアだといわれている。1950年代までは中東諸国で重宝されていたが、1960年代初期になるとクリスチャン・ディオールやクリストバル・バレンシアガといったフランスを代表するクチュリエたちが自身のコレクションに取り入れ、ルーズなシルエットの新たなイヴニングドレスとして提案。1966年には『VOGUE』誌がカフタンドレスをジェットセッターの定番アイテムとして紹介し、ラグジュアリーなレジャースタイルのアイコンとしての地位を確立した。
するとハリウッド女優たちはこぞってカフタンドレス姿を披露し、気高くグラマラスなイメージを演出するようになった。ジャクリーン・ケネディはクリスタルで縁取りされたヴァレンティノのミントグリーンのカフタンドレスで洗練された美しさを、エリザベス・テーラーは優雅なプリントのカフタンドレスで神々しさを、モナコのグレース公妃は流れるようなシルエットのカフタンドレスでプリンセスとしての威厳を漂わせたものだ。そして忘れてはならないのがジョン・ポール&タリサ・ゲッティ夫婦がマラケシュで着ていたカフタンドレスのペアルック。アイテムとしてはシンプルでも、陽気なデカダンスを感じさせるカフタンドレスは、洗練を極めたステータスシンボルとして認識されるようになった。

70年代から80年代にかけてシルエットは少しタイトになり、軽やかなリゾートウェアとしてメインストリームからは少し外れたポジションに追いやられた。しかし2000年代を迎えるとボヘミアンルックが世界的なトレンドとなり、セレブリティ御用達スタイリストとして有名なレイチェル・ゾーイの影響力も手伝ってカフタンは第二の黄金期を迎えた。私がカフタンドレスに注目したのは、ちょうどその頃である。ミーシャ・バートン、ニコール・リッチー、パリス・ヒルトン、オルセン姉妹など、2000年代初頭に台頭してきた若手セレブを見て大人の女性への憧れを募らせた。そう、カフタンドレスに身を包んで腕にはバングルを幾重にも重ね、颯爽とウエストトハリウッドを闊歩することを夢見たのだ。私の「カフタンドレス愛」はこうして生まれたのである。
私のワードローブの中でカフタンドレスは白シャツと同じくらい重要なポジションを占めている。カジュアルなディナーパーティーからフォーマルなウェディング、さらには太陽の下でのピクニックまで、カフタンドレスはあらゆるシーンにマッチして、スタイリッシュで自信に満ちた女性像を演出してくれるのだ。また、着心地の良さも人気の大きな理由のひとつ。特に現在のコロナ禍においては私たちの荒んだ心を癒し、自由な気持ちにさせてくれるので、次から次へと欲しくなってしまうのだ。
かつてリラックスウェアやリゾートウェアの象徴として見られたカフタンドレス。シンプルでフレッシュというイメージが先行している傾向はあるものの、今やその枠を超えて街でもビーチでも着られる万能アイテムとしての地位を確立している。オリヴィア・フォン・ハレのミディ丈のカフタンドレスはナイトアウトに欠かせないし、ザ ロウのニュートラルなスタイルは身も心もラグジュアリーにしてくれる。オスカー デ ラ レンタやヴァレンティノのカフタンドレスを纏えば、この夏の様々な外出シーンにおいて、最高の気分が味わえることは間違いない。
風にたなびく優雅なスタイルで着る人の気分までアップしてくれるカフタンドレス。着こなしのコツはスタイルアップを意識せずにちょっとしたアクセントをプラスすること。たとえばオーバーサイズのカゴバッグやユニークなテクスチャーのクラッチバッグを合わせてジュエリーを重ね付けし、足元はシンプルなサンダルに。「ファッショナブル」で「美しい人」になれるパワーがカフタンドレスにはあるのだから、これだけで十分だと誰もが実感できるはずだ。