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THE LBD
ワードローブの定番、LBD=リトルブラックドレスはどんなドレスコードにも対応できる万能アイテム。ここ半世紀の間に何度もアップデートを繰り返し、今日では洗練の証として、時にはアヴァンギャルドの象徴として引き合いに出される唯一の存在だ。その魅力を熟知する作家兼スタイルジャーナリストのキャサリン・オーメロッドに完璧な1着を見極めるヒントや今日までの変遷を語ってもらった。


「リトルブラックドレスは控えめで趣味がよく、存在感がありながらどんなドレスコードにも対応できる懐の深さを持つ唯一の存在なのだ」 ―― キャサリン・オーメロッド
2000年代初め、『セックス・アンド・ザ・シティ』に夢中になった女性なら誰もがわかってくれると思うが「リトルブラックドレス=黒のワンピース」は私のワードローブにとって、なくてはならない存在だ。特に若い頃は、地元のショッピングモールで幻のように輝くリトルブラックドレスを探し回ったものだ。自分にぴったりのドレスが見つかれば、自分は洗練された趣味の良い大人の女性になれるのだと信じて疑わなかった。これだと思うドレスが見つかったと思ったこともあった。地元の大晦日パーティーで着たものとか、初めての女友達との旅行に着て行ったMorgan de Toiのミニ丈のキャミソールドレスとか。でも、リトルブラックドレスの本当の価値を知ったのは『The Sunday Times Style』の編集部にファッションアシスタントとして職を得た後のことだ。ウエストがキュッとくびれていて、ちょっとした障害物なら簡単に飛び超えられるくらいの短さのドルチェ&ガッバーナのドレスを初めて着た時の衝撃は今でも忘れられない。ようやく自分がずっと憧れていた女性になれたその瞬間、自分の中で何かのスイッチが押されたような感覚を今でも覚えている。
ここで長い歴史を持つリトルブラックドレスの起源を今一度振り返ってみよう。今、私たちがリトルブラックドレスと聞いて思い浮かぶドレスが初めてファッションシーンに登場したのは約100年前。それまで黒い服の用途は喪服に限定されており、現在のように日常で着用されるものではなかった。しかし、ココ・シャネルの目には黒はそれまでとは違った輝きをもって映っていた。孤児として修道院で過ごした幼少期、修道女から裁縫を教わったシャネルは簡素な生活習慣を通してモノクロームのカラーパレットに美を見出すようになったのだ。シャネルは自身のコレクションで、シンプルで美しいブラックドレスを提案。コルセットで身体を締め付け、派手なビーズの装飾を施した帽子をかぶるのが当たり前な時代に、シャネルが提案するリトルブラックドレスは反骨精神の象徴として大いなるショックを世間に与えたのは想像に難くないだろう。
世界大恐慌の下、リトルブラックドレスは実用的でありながらスタイルのある洋服として人気を得た。そして第二次世界大戦後にはクリスチャン・ディオールによって再び脚光を浴びることになる。シャネルのデザインが女性をあらゆるしがらみから解き放ち、アクティブに過ごせることに心を砕いたのに対し、ディオールはウエストを細く絞り、たっぷりとプリーツ を入れたデザインでリトルブラックドレスをグラマラスでフェミニンなイメージへと塗り替えたのだ。その後も数々のアイコニックなリトルブラックドレスが次から次へと誕生。1960年代、ユベール・ド・ジバンシィがデザインしたシンプルでタイトなドレスは、映画『ティファニーで朝食を』の中で主人公のホリー・ゴライトリーを演じたオードリー・ヘップバーンが着用して話題を呼んだ。また、イヴ・サンローランは映画『昼顔』のヒロインを演じたカトリーヌ・ドヌーヴのためにデザインした白い襟とカフスで丁寧に仕上げたドレスで、カジュアルなクチュールスタイルを提案したのだ。

1970年代に入ると、リトルブラックドレスはニューヨークの伝説的なクラブ、スタジオ54の常連だったダイアナ・ロスにより、ディスコシーンに進出。一方ジャクリーン・ケネディはシックなシフォンのドレス姿を披露し、リトルブラックドレスを上流階級にふさわしいアンサンブルルックへとクラスアップさせた。1980年代半ばには、伝説のチャリティ音楽イベント「ライブエイド」でミック・ジャガーと共演したティナ・ターナーがブラックレザーのドレス姿を披露し、リトルブラックドレスにロック魂を吹き込んだ。そして1994年、ダイアナ元妃が着用したクリスティアナ・スタンボリアンのデザインによるドレスは「リベンジドレス」として話題を呼び、エリザベス・ハーレーが着用したヴェルサーチェの安全ピンドレスと並んでその年のドレス・オブ・ザ・イヤーの座を争った。その頃にはストラップドレスも誕生。幾度もアップデートを重ね、今でも定番スタイルとして高い人気を誇っています。ケイト・モス、キャリー・ブラッドショー(サラ・ジェシカ・パーカー)、ポッシュ・スパイス(ヴィクトリア・ベッカム)といったファッションアイコンもこぞって着用し、現在では定番となるほどの大ブームを巻き起こしたのだ。
リトルブラックドレスが魅力的なのは、様々な変遷を経て、トレンドを超越したスタイルになったからにほかならない。控えめで趣味がよく、存在感がありながらどんなドレスコードにも対応できる懐の深さを持つ唯一の存在なのだ。それだけに1着だけでは物足りない感じがして、たくさん欲しくなるかもしれない。トレンドを意識した着こなしができるドレスを手に入れるには、まずは自分のワードローブを思い浮かべて候補のドレスを手持ちのアイテムのひとつひとつとコーディネートしてみるのがおすすめだ。ニットと組み合わせたり、上質なタートルネックやボディスーツの上から着たり、白いシャツやチャンキーなカーディガンを合わせるのもいいだろう。そうすればより長く楽しむことができる。勝負ドレスとしてクローゼットにしまいっぱなしにするのだけは避けるべきで、日常のワードローブとして活用してほしい。
リトルブラックドレスが他のドレスよりも際立って見えるもうひとつの理由は、カッティングの美しさにある。色やプリントに頼らない分、繊細なカッティングテクニックが要求されるのだ。ボディに寄り添って周囲の目を引きつけるシルエットを実現させるか、または首回りを少し深めにし、デコルテや背中といったボディパーツを美しく見せるか、少なくともそのどちらかでなければならない。選ぶ際のポイントは、デザイン、生地のクオリティ、シャープなテーラリングの3点。発表された年代は気にしないで大丈夫。シンプルながらもオーバルシェイプにカットしたネックラインなど、デザイン性の高いものをセレクトしよう。もし火事が起きたら真っ先に持ち出したくなるような1着を選ぶべきで、友達に貸すなんてもってのほか!決して手放したくない、愛してやまないリトルブラックドレスがあなたにとって価値ある1着なのだ。