The Icons - Midi Dress
THE MIDI DRESS | ミディ丈ワンピース
フリーランスのファッションディレクターとして活動するギャビー・プレスコード。彼女が苦手だったミディ丈ワンピースの魅力に目覚めたきっかけは、プラダだったという。今では、ミディ丈ワンピース愛好家となったギャビーが語る、ミディ丈ワンピースの魅力とは?


コロナ禍に見舞われて2年あまりが経とうとする今、私たちはライフスタイルとワードローブを新しい現実に合わせて見直す必要に迫られている。住んでいる国によってはマスクが手放せないアイテムになった人もいれば、リビングのソファをオフィスとしてスウェット姿で仕事をするのが当たり前になった人もいるだろう。ワクチンのおかげで社会はほぼコロナ以前の姿を取り戻しつつあるが、ここにきて「アスレジャー以外のスタイル」を楽しむことの是非を問う声が高まっているように感じている。
もちろん、『SEX & THE CITY』でサラ・ジェシカ・パーカーが演じたキャリー・ブラッドショーのように、ファッション的に窮屈な現状に我慢できず、ブランチにドレス姿で向かう人もいるだろう。一方でステイホームの居心地の良さにハマってしまい、以前のようにラウンジウェアやパジャマで一日を過ごせないような生活には戻るなんてまっぴらごめんだという人 (映画『恋愛適齢期』に登場するダイアン・キートンのルックが好例) もいるだろう。これらは極端な例だが、おそらく多くの人はその両極の間で揺れ動き、自分にとって納得のいくポイントを探っているのだはないだろうか。そうなるとコロナ禍で慣れ親しんだ快適さを損なうことなく、いかに自分らしさをキープするかが問題の焦点になってくる。そう、ここでミディ丈ワンピースの出番だ。
まず知ってほしいのは、ミディ丈ワンピースの汎用性をみくびってはならないということ。過去の私はミディ丈ワンピースというのは、ある特定のスタイルにこだわり、しかも背の高い女性に向けたものだと思い込んでいた。そしてこの2つの条件はどちらも私に当てはまらないため、自分には似合わないと思い、この丈感は平均身長よりも少なくとも10cmは高くなければ似合わないのだと決めつけていたのだ。一方で、ミディ丈ワンピースが好きな女性はジャッキー・オナシスを信奉する熱狂的なビンテージ愛好家のイメージがあった。確かにジャッキーは揺るぎないファッションアイコンだが、彼女のスタイルは私が目指す方向とはかけ離れていた。レトロ風ルックを取り入れ、今風にアップデートしたスタイルは、どう頑張っても私には辿り着けない境地にあったのだから。だが、ある日、私は神の啓示ともいうべきコレクションに出会ってしまった。プラダの2011年春夏シーズンでミウッチャが提案したのは、私がそれまで時代遅れだと決めつけていた色使いやプリント柄、形やシルエットばかり。ミディ丈というよりは膝丈という方がより正確かもしれないが、とにかく私はこの絶妙なデザインに目を奪われ、自分の中の価値観が完全に変わってしまったのだ。

このコレクションに魅せられてしまって以来、私は今もこのスタイルに夢中だ。中でも運命的だと思うのは、とあるアウトレットでショッピングをしていたときに出会った一着。それはピンク、オレンジ、ブラックのストライプ柄に彩られたワンピース (正確にいえばルックナンバー19) で、ランウェイにも登場したスターアイテムではあるものの、そこではあまり人気のなさそうな洋服の中に埋もれていた。それを見つけた私は、まさにダイヤモンドの原石を発見した気分になったものだ。アシスタントの給料では到底カバーできないくらい高額だったが、私はすぐにレジに向かい、ハッピーな気持ちでクレジットカードを差し出したのだ。それまではどんなに欲しいものに出会っても衝動買いをすることなんてなかったのに……! 身長180cmのモデルが着ると膝丈だが、私が着るとふくらはぎの真ん中あたりになるのはご愛嬌として、このワンピースをきっかけに私は出口のないミディ丈ワンピースの世界にハマってしまったのだ。
このワンピースで完全にスイッチが入ってしまった私は、文字通りそこに光を見出した。ミディ丈ワンピースはどんなアイテムとも相性がよく、それまでコーディネートに苦戦していたのがまるで嘘のよう。なかなか解決できない「ワードローブ問題」を、このワンピースはあっさりと解決してしまったのだ。洗練された雰囲気を失わずにエフォートレスなスタイルでキメたい結婚式でも、好印象を与えつつもしっかりと目立ちたい初出社の日にも、別れた恋人にフォーマルな場で後悔させたいときにも、ミディ丈ワンピースは絶大な存在感を発揮し、これ以外に選択肢はないということを証明してくれる。そう、一着入手してしまったがために、私のミディ丈ワンピース愛は止まらなくなってしまったのだ。ディオン リーやキャロライナ へレラ、ヘルムート ラングには、カジュアルからアヴァンギャルドまで、あらゆるデザインのミディ丈ワンピースが揃っている。ニットのミディ丈ワンピースならニーハイブーツとジャケットに合わせれば、シックで落ち着いた印象のデイリーウェアになる。足元をシンプルなハイヒールにして個性的なイヤリングをプラスすれば、少しフォーマルなスタイルにクラスアップすることもできる。一言にミディ丈ワンピースと言っても、その表情も魅力も無限なのだ。
私たちが日常的に着こなそうと思えば、キャリー・ブラッドショー流の「盛り感」と、フィービー・ファイロ的ミニマリズムの中間あたりを意識することになるだろう。どのスタイルに収まっても、ミディ丈ドレスにはワンランク上のスタイルに仕上げる底力があることを、皆さんにもぜひ覚えておいてほしい。