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THE GLADIATOR SANDAL
夏の定番「グラディエーターサンダル」を愛してやまない『Harper’s Bazaar』デジタル版副編集長のエラ・アレキサンダー。いわゆる“女性らしさ”とは対極にあるグラディエーターサンダルの由来や歴史から現代のワードローブとのコーディネートに至るまで、エラがその魅力を語りつくした。


はっきり言えるのは、私のグラディエーターサンダルへの長年にわたる愛は、アマゾネスのように強い女性でありたいという私の中のフェミニズムがベースになっているということ。実際、そこまで明確な主義主張があるわけではないのだけれど。いずれにしても、グラディエーターサンダルが世界的に認知されるようになったのは2000年代、シエナ・ミラーがきっかけだった。
私が初めてシエナ・ミラーと彼女がグラディエーターサンダルに夢中になっていることを知ったのは18歳の頃。彼女が着こなすボヘミアン風ワンピースやフェミニンなスカートとコントラストを描くサンダルがとても印象的だった。服は可憐な少女のイメージなのに、足元は今にも駆け出さんばかりの戦闘態勢に見えたから。それからケイト・モスもグラディエーターサンダルをいち早くコーディネートに取り入れていたひとり。カットオフしたショートパンツに大振りのバックルがついたベルトとベストを合わせて、足元はグラディエーターサンダルだった。2009年の初め頃には、世の中はグラディエーターサンダルで溢れていたように思う。私のシューズクローゼットにも黒、ブラウンの他にゴールドのグラディエーターサンダルが並んでいた。
これほど起源が古く、そしてその歴史が広く知られているファッションアイテムは他にないだろう。ローマ時代の戦士がこのサンダルを履いていたことは、誰もが知る事実である。あまり知られていないのはギリシャ神話の神々もまた多くの芸術作品の中でステータスやセックス、スタイルの象徴としてこのサンダルを身につけていたことだろうか。古代ギリシャにおいて自由に外出できるようになった上流階級の女性たちは、いつでも履き替えられるように「サンダルティック」と呼ばれるリュクスなカーペット生地でできたバッグに様々なサンダルを入れ、従者に持ち運ばせていたという。当時のサンダルは上質なレザー製で留め具はストラップだったため、ほぼ素足のように見えたという。当時から今日と同じく鮮やかな色に染められたり飾り付けがされたりしていたようだが、所属する階級によって許される色や飾りが異なっていたらしい。グラディエーターサンダルが再び息を吹き返すのは、1960年代に入ってから。イギリス人モデルのパティ・ボイドがカリフォルニアでブラウンのフリンジ付きニーハイスタイルのグラディエーターサンダルを履いた写真が世に出回ると、グラディエーターサンダルの存在は世界中に拡散。その結果、フレッシュなボヘミアンスタイルと若さの象徴として一般に浸透した。このルックは今なお健在で、40年という時を経てシエナ・ミラーへと引き継がれたのだ。

グラディエーターサンダルを語るなら、その弱点にも触れておかなければいけない。そう、グラディエーターサンダルはスタイルアップに役立つ反面、決して履きやすいとはいえないのは紛れもない事実だ。特にニーハイとなると、履きこなすには美しく日焼けし、引き締まった脚であることが絶対条件であり、おまけに履くのに時間もかかる。ストラップを等間隔に調整しながら、ずれないようにしっかりと、しかも美しく巻きつけるのにどれだけの労力と時間を要することか!あなたがリアーナであれば、それも難しくはないだろう。しかしリアーナとは諸々の点でかけ離れているなら、スタンダードなフラットタイプを選んだ方がいいだろう。その際も動きやすさは求めず、なおかつ複雑な飾りつけのあるものは避けたいところ。私のおすすめはレザー本来のシンプルな色味を生かしたクラシックなデザインだ。そして古代ギリシャに起源を持つだけあって、このサンダルは真のタイムレスアイテム。アン ドゥムルメステールが提案するのは繊細なレースアップでカラーもブラックとゴールドの2色を展開している。3.1 フィリップ リムのシルバーのプラットフォームにリボンをあしらったサンダルはワンピースにもデニムにも合わせられるモダンなムードが魅力だ。
グラディエーターサンダルの最大の魅力は、どんなスタイルにもマッチする点だろう。風に揺れるサマードレスにはもちろん、ミディ丈のスカートやショートパンツにもさりげないエレガントに見せてくれる。バカンスシーンでも活躍するし、街中でストレートのクロップドデニムに合わせることもできる。シンプルなシルエットも、ナチュラルトーンのレザーストラップが加わることで洗練されているように見えるのだ。そしてそのストラップが太いほどタフな印象になるので、キュートなサマールックもラフな印象に仕上げることができる。私の冬の定番はガニーのハイキングブーツだが、夏はグラディエーターサンダルが中心となり、私のフェミニンなファッションに個性をプラスしてくれるのだ。
私にとってグラディエーターサンダルは太陽の輝きと同義語だ。このサンダルを履くということは、公園で過ごす暖かな日々、海外でのバカンスシーズン、街中での散歩が満喫できる爽やかな季節、そしてアペロールスプリッツを片手にバーの屋外席でアペリティフを楽しむナイトライフが始まるということ。どこにいても、まるで裸足で歩いているような気分にさせてくれるのだ。そんなとき、どれだけストラップで締め付けられても、私の心は自由に向かって軽やかに羽ばたいていくのである。