The Icons-The Crombie Coat
THE CROMBIE COAT
アウターを選ぶとき、多くの人が優先するのはタイムレスなデザインで機能的、かつスタイリッシュであることだろう。そのすべてを満たす究極のアウターとして、作家、スタイリスト、クリエイティブディレクターとしてマルチに活躍するジェイソン・ジュールスがおすすめしてくれたのが、チェスターコートだ。別名「クロンビーコート」と呼ばれるこのエレガントな定番コートを、彼は何年も愛用しているという。今回は、ジェイソンにチェスターコートの魅力と着こなしのコツをご紹介したい。


男性ファッション誌に書かれていることとは正反対に聞こえるかもしれないが、私が買い物をする上で気をつけているのは「トレンドとは無縁なものを選ぶこと」である。
例えばこのコートは、数年前に購入したものだ。冬になっていざ出番が来た時、私はそれがトレンドアイテムかどうかは一切気にしていない。時代を問わず着られることをわかっているからだ。もちろん、女性に比べて男性のファッションは移り変わりのペースが緩やかであることは間違いない。だが、このタイプのコートが長く愛される理由は、クラシカルな定番であるだけでなく、どんなスタイルにも合わせられる着こなしの幅の広さにある。
私が始めてチェスターコートに出会ったのは、イギリスのテレビ番組シリーズ『The Avengers』でジョン・スティードが着ているのを見た時だ。いわゆるカバートコートとチェスターコートをミックスしたようなスタイルで、まだ自分で洋服を買うような年齢ではなかったにも関わらず、自分もこんなコートがほしいと強く思ったことを覚えている。当時のコートのほとんどはダークブルーのウール製で、「クロンビーコート」という通称は、1805年からこの特徴的なコートを作り始めたテキスタイル工場の経営者、ジョン・クロンビーの名に由来している。
メンズのコートは、ニュアンスがものをいう世界。カバートコートと呼ばれるスタイルは、裾と袖を線路の継ぎ目の様なステッチで縫い留めてあるのが特徴だが、それは元々乗馬服や狩猟用の服装に用いられていた技法らしい。一方、チェスターフィールド伯爵の名前を冠したチェスターコートは、クロンビーコートとカバートコートをミックスしたスタイルだ。ウールを用いたグレーのヘリンボーン地が基本で、丈は長く、フロントはクラシックなシングルブレステッド仕様を特徴とする。カバーとコート同様、衿は別の素材で切り替えられており、黒のベルベットが用いられることが多い。
年月を重ね、チェスターコートは2つの異なる顔を持つようになった。ウィンストン・チャーチル、バラク・オバマ、キング・チャーチル3世ら、いわゆる世の中を動かす体制側の人間が着るコートとして認識されている一方、いわゆる反体制と呼ばれることもあるスキンヘッズ、ギャングらの象徴でもあるのだ。チェスターコートが「何にでも合わせられる」と言われる理由は、この点に凝縮されていると言ってもいいだろう。

もちろん、それがすべてではない。地域の名主がこぞって着ていた時代もあったし、ビジネスマンをはじめ、一部のエリート階級の制服的アイテムになった時期もある。が、私を夢中にさせたのは、銀幕のスターたちがいかにこのコートを着こなしているかを見ることだった。スクリーンで輝く登場人物たちの背景や心持ちを、このコートは見事に代弁しているのだ。例えばNetflixのドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』のエディー・マーフィー、映画『スナッチ』で主演を務めたジェイソン・ステイサムなど、その例は枚挙に暇がない。誰が着ていようと必ず目がとまってしまう。それほどその人を魅力的に見せる力がチェスターコートには秘められているのだ。
私はファッションが大好きだが、そこまで真剣に洋服に向き合っているわけではない。だからなのか、チェスターコートのようなフォーマルなアイテムに、カジュアルなアイテムを合わせて気軽に楽しんでいる。デートや友人との食事などのちょっと特別な場にも、私はダークカラーのデニムにスウェットシャツとローファーを合わせて出かけることが多い。そうやって、堅苦しさやフォーマルな窮屈さを感じず楽しんでいる。
フォーマルなイベントの場に向かう場合は、スーツやスポーツジャケットにネクタイを閉めた上にチェスターコートを羽織るのが私のスタイルだ。このコートはフォーマルな場でも、ちょっとカジュアルに見せてくれるところがいい。エレガンスと遊び心の両方をさりげなく演出してくれるという点が、いちばん大きな魅力かもしれない。チェスターコートは本当にどんなシーンにも違和感なく溶け込む万能コートなのである。
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