THE ICONS

THE PANT SUIT

数々の受賞歴を誇り、ファッション誌のエディター、テレビコメンテーターとして活躍するジョー・エルヴィン。彼女が長年愛してやまないパンツスーツは華があって着心地が良く、革新的でありながら、さりげなくスタイリッシュスに見せてくれるのが魅力だ。今回、パンツスーツがエルヴィンのワードローブの定番になった背景を、本人に語ってもらった。

Wedding pictures
Woman in workwear clothing

「どんなカッティングのスーツを選ぶのが世間的には正解なのか、なんて気にする必要はない。気を配るべきポイントは自分の個性に合ったデザインかどうかだけなのだから」 ―― ジョー・エルヴィン

まずは、パンツスーツが定番アイテムとして世間に認知されるきっかけを作ってくれた先駆者たちに、感謝の気持ちをのべるところから始めたい。その筆頭は、もちろんマレーネ・ディートリヒである。彼女が1933年に真っ白なパンツスーツをまとって『VOGUE』誌に登場した時、世間は息を呑み、驚愕した。ネクタイをきっちり締めた彼女の姿は、当時のジェンダー意識を根底から覆す振る舞いとして、論争を巻き起こした。次に、デザイナーのイヴ・サンローラン。彼は1966年に“Le Smoking”と呼ばれる女性のためのタキシードルックを提案。以来、それは革新的な女性のイブニングスタイルとして重宝され続けているが、その陰にはアメリカのソーシャライト、ナン・ケンパーの存在があった。彼女はいち早くサンローランのタキシードルックに身を包んで社交界に姿を現し話題を呼んだが、その直後にはマンハッタンの上流階級が集うレストランからは入店を拒否されるという憂き目も見たという。

幼い頃の私に強烈な印象を残したパンツスーツのアイコンとして、ダイアン・キートンの存在も外せない。オーバーサイズのバギーパンツにタイトなベストを合わせた彼女のスタイルは、衝撃的ながらも最高にクールだった。ロックの象徴たるビアンカ・ジャガーに至っては、自身のウェディングに純白のパンツスーツ姿で登場。世間の戸惑いをよそに、女性はパンツスーツを着ても女性らしく見えるのだということを証明してみせた。

こうした先駆者たちのおかげでパンツルックやパンツスーツは男性だけに許されたスタイルであるという考え方は徐々にその根拠を失い、やがて女性のファッションに欠かせない存在としての地位を確立したのだ。

私としては、なんともありがたいことである。というのも、私にとってワンピースを着て脚を晒すなんてもってのほか!パンツスーツなしの人生なんて想像しただけでも冷や汗ものなのだから。

Woman in workwear clothing

世の女性の意識がパンツスーツから離れたのは、外出禁止の自粛生活を強いられたこの1年半の間くらいだろう。この期間は、外出時に何を着ていたかなんて、もはや考えることすらしなくなっていたはずだ。そんな中でもスーツほど気が楽なものはない。どんな服を着ていこうかと頭を悩ませる必要がなく、それでいて仕事上では戦闘服として活躍してくれるのだから。私としてはこれほどシンプルで万能なスタイルは他には思いつかない。スニーカーやお気に入りのロックTシャツを合わせてもいいし、カジュアルに着こなせばちょっとしたショッピングにも行ける。ヒールを履き、アイライナーを引けばパーティーにも対応できる。その上、あらゆるアイテムと相性が良く、ジャケットだけでもパンツだけでも、手持ちのどんな洋服とだって組み合わせられるのだ。

というわけで、「スーツってトレンドなの?」なんていう野暮な質問は控えていただきたい。多くの女性にとって、パンツスーツはもはや生活の一部なのだから。そして、今はどんなカッティングのスーツを選ぶのが世間的には正解なのか、なんて気にする必要もない。気を配るべきポイントは自分の個性に合ったデザインかどうかだけで、たまたま今「トレンド」とされるデザインに振り回されるのは時間の無駄以外の何ものでもない。

ただ、デザイナーやファッションエディターたちは、今のところ少しオーバーサイズなシルエットに夢中だ。とはいえ、美しいテーラード仕立てであること、かつジャケットの袖は手首よりも少しだけ長く、パンツも少しゆったりとしている程度であること、が必須条件である。インナーにはジャストフィットのTシャツやタンクトップなどシンプルなアイテムを合わせ、スーツのボリューム感を引き立てるのが定番の着こなし方法だ。

理由はわからないが、今の私はパステルカラーのパンツスーツに心惹かれている。コーディネートのコツは頭から足元まで、ワントーンで統一すること。カシミヤのTシャツやスニーカーを同系色で合わせるのが良いだろう。私の目下のお気に入りは、パステルピンクのパンツスーツ。それがあれば、通勤という名の苦行も乗り越えられる気がする。

そして今季最大のトレンドは「プリンス・オブ・ウェールズ・チェック」として親しまれているグレンチェックのパンツスーツだ。クリーム色のカシミヤニットと抜群に相性が良いのだが、私だったら派手な色のプリントシャツを合わせてコントラストを楽しみたい。

1990年代、私は真っ赤なベルベットの細身のパンツスーツを持っていた。実はこれはトム・フォードがクリエイティブディレクターになったばかりのグッチのコレクションで、アレッサンドロ・ミケーレがリバイブさせて再び注目を浴びた伝説的なスーツだ。様々なトレンドを経た現在も当時と変わらず新鮮かつシックなスタイルで、美しくセクシーなパンツスーツが永遠にスタイリッシュであり続けることの証であるような気がしてならないのである。

Translation: Tatsuya Miura