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THE STONEWASH JEANS
『Esquire』誌のスタイルディレクターを務めるチャーリー・ティースデールは、気が付いたらストーンウォッシュデニムの虜になっていたそうだ。肩肘張らずに着られて、シンプルかつタイムレス。一年を通して活躍するストーンウォッシュデニムのルーツは主にふたつあるという。ひとつは90年代、もうひとつはアメリカのスポーツウェアだ。どちらのルーツを信じるかは自分次第だが、ティースデールによるとストーンウォッシュデニムは時代を超えて楽しむことができるメンズファッションに欠かせない存在だ。


「ストーンウォッシュデニムはシンプルかつカジュアル、さらには絶対的にタイムレスで、状態の良いものにはどこか洗練された魅力さえある」――チャーリー・ティースデール
流行には「トレンド」と「ブーム」の2種類ある。「トレンド」はしばしば議論の対象になるが、「ブーム」が議論されることは滅多にない。ここでいう「トレンド」とは、世間のムードを予測し、シーズンのカラーやシルエットについて高みに座してものを言う「スタイルの神」の一声で決まるもの。つまり、大抵の「トレンド」はランウェイかビッグブランドの独壇場で生まれているということだ。一方、「ブーム」というのはバラバラに発生するもので、かなりパーソナルな現象である。つまり、その発生源は我々エンドユーザーだ。「トレンド」は国境を超えて広がるが、「ブーム」は特定の街や地域、極論をいえばひとりの人間の中だけで完結する現象なのである。そして、今、私が最も注目している「ブーム」こそ、ストーンウォッシュのブルーデニムなのだ。
私自身、もちろんストーンウォッシュ以外のアイテムにハマったこともあるし、これからもさまざまなアイテムの「ブーム」に夢中になるだろう。実際、2021年末は黒のチャンキーローファーにハマり、冬の寒さに足首が根を上げるまではき続けた。その後はドクターマーチンの定番ブーツ「1460」に乗り換え、これもほぼ毎日はいたが、その結果、味わい深さを通り越して崩壊寸前の状態へと追いやってしまった。
実は、昔はこんな風ではなかった。これはここ数年のコロナ禍による経験を通して、毎朝その日着る洋服を決める時にタイムレスで安定感のあるものを選ぶようになってしまった結果なのだ。
私が「ストーンウォッシュデニム」と呼んでいるのは、クラシックなブルーデニムよりも少し薄く、ワンウォッシュデニムのような濃いインディゴブルーに比べれば断然薄い、ちょうどいい色落ち加減のブルーデニムである。ストーンウォッシュというのはデニムを着古したような自然な感じに仕上げるための加工法のひとつだ。それまでは洗濯機の中に文字通り石を入れて洗うことで新品のデニム特有の硬さをなくすが通常のやり方であった。その過程で生地はやわらかくなり、いい具合の色落ちに仕上がっていく。科学的な手法ではないので、ストーンウォッシュデニムにはケミカルウォッシュや薬品染めのデニムに比べて自然な模様ができるのだ。数多くのデニムフリークがストーンウォッシュを最初に考えたのは自分だと主張してきたが、本当に発明した人が誰なのかを証明する手立ては残念ながらない。ただひとつ確実なことは、20世紀の半ば頃、まさにユースカルチャーの誕生に合わせるかのように、どこからかともなく現れたということである。

ストーンウォッシュデニムはこれまでも絶大な支持を誇ってきたが、ここ最近はかつてないほどにその熱が高まっている (ストーンウォッシュに限らずデニム自体に当てはまる現象でもある)。注目のトレンド (決して「ブーム」ではない) の中には、いい具合に色落ちしたブルーデニムを軸にしたルックもいくつかある。例えばバレンシアガやアクネ ストゥディオズ、マックキュー アレキサンダー マックイーンなどはバギーや裾の長いモデルに代表される90年代風のスタイルを、グッチやザ ロウは70年代風のハイウエストかつフレアシルエットを提案している。
また、90年代のアメリカの人気TVドラマ『となりのサインフェルド』的トレンドといえば、大ぶりのスニーカーにオーバーサイズのニットやスウェットを合わせるスタイルだ。そして登場人物が着こなす象徴的なルックには、ストーンウォッシュデニムが欠かせない。今は、2000年代後半から2010年代半ばにかけて流行った「インディ・スリーズ (別名: ヒップスター)」なスタイルも再燃しているので、ワードローブから細身のデニムを掘り出しておくといいかもしれない。
私が持っているストーンウォッシュデニムはクロップド丈で、わずかにテーパードされているから、前述のコインローファーとハイゲージのニット、オーバーサイズのコートとの相性は抜群だ。何ならパリジャン風に見えるのでは、と心のどこかで期待していたりもする。ストーンウォッシュデニムはシンプルかつカジュアル、さらに絶対的にタイムレスで、状態の良いものにはどこか洗練された魅力さえある。少なくとも私のようにカジュアルウェアが許される業種の現場では実は仕事着としても活用できるほどスマートな存在だ。今のところ、ストーンウォッシュデニム以外に毎日でも着たいと思えるアイテムはない。もしかしたら、これは私だけの「ブーム」なのかもしれないが。
Translation: Tatsuya Miura