THE ICONS

THE SUMMER SHIRT

気温が高い季節に欠かせないアイテムの筆頭として「シャツ」をあげて異議を唱える人は少ないだろう。もちろん長袖でカチッとしたシャツは夏には向かないし、暑いと着る気も起こらない。ただ、たとえ夏休みはまだまだ先であっても、夏らしいものが着たくなるのは人情だ。そんな時に最適なのが、夏の定番「サマーシャツ」だ。強い日差しに映え、暑い季節には涼しくさえ感じさせてくれるスグレモノだ。『ザ・テレグラフ』紙のメンズスタイルエディターを務めるステファン・ドイグに、その魅力を語ってもらった。

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Blue cashmere sweater

「サマーシャツは、着るだけですぐにホリデー気分になれる。まるでそこに、気持ちをプライベートな感覚に切り替えてくれる何かが備わっているかのように」―― ステファン・ドイグ 

気難しい奴だと思われるかもしれないが、こだわりの強いスコットランド人として言わせてもらうと、暑い季節に着る気になる服はそう多くはない。私はスペインのイビザ島の日の出を思わせる強烈なカラーやバレアレス諸島特有の鮮やかな色合いよりも、秋を思わせる小豆色や灰色のトーンの方が好きだ。しかしながら、夏のある時期に限れば、女性が軽やなサマードレスを楽しむ暑い日にはサマーシャツが恋しくなるのが本音である。

今の時代、きちんとしたシャツは扱いづらくて古風すぎると感じられるかもしれない。自宅でのリモートワークが日常だと言う人もまだまだ多いだろう。つまり、かっちりとしたフォーマルなシャツ、しかも糊をきかせたコットンシャツの需要はかなり減っているはずだ。嬉しいことに、サマーシャツはその正反対で、気取ったところは一切ない。着ていて楽しい気分になるデザインが多いから、着るだけですぐにホリデー気分になれる。まるでそこに、気持ちをプライベートな感覚に切り替えてくれる仕掛けが備わっているかのようだ。さらにサマーシャツは時代を先取るスタイリッシュな男性たちからも一目置かれる存在でもある。

映画『地上より永遠に』ではモンゴメリー・クリフトが、『ブルー・ハワイ』ではエルヴィス・プレスリーが、『007/サンダーボール作戦』ではショーン・コネリーが演じるジェームス・ボンドが着用していたトロピカルなアロハシャツは、サマーシャツの代表格である。また、カウンターカルチャーのスタイルアイコン、トニー・ソプラノが着るフェミニンなフローラルプリントの軽やかな半袖シャツも、彼独特の悪役風の雰囲気と相まってシャツの着こなしのいいお手本だ。

ここで、サマーシャツの定義について考えてみたい。素材、形、フィット感すべてがフォーマルシャツとは異なっている。サマーシャツにはシルクではなくソフトなコットンやリネンが使われ、身体にフィットしたシルエットよりも、ゆったりめのサイズ感が主流である。ディテールも首回りは抜け感のある大きめの開衿であることが多い。テーラードの世界では半袖は長袖に比べて洗練さに欠けるとされているが、タブー視されている訳ではない。特に現代は遊び心が求められる時代。長袖シャツを着るにしても、簡単に腕まくりができるくらいのゆったりしたシルエットのシャツをおすすめしたい。 

Blue cashmere sweater

シャツを強みとするブランドはいくつかある。パリ発信のオフィシン ジェネラルはデザイナーのピーエル・マヘオが率いるブランドで、完璧な仕立てと洗練されたスタイルのシャツに定評がある。ゆったりとしたシルエットのミニマルなデザインを得意とし、トレーサビリティの高い素材を使ってクオリティを追求しているが、中でもグランドダッドカラーと呼ばれるスタンドカラーのシャツは、夏に最適の一枚だろう。もう少しカジュアルがお好みなら、アメリカ西海岸発のブランドがおすすめだ。ラグ&ボーンやジェームス パースには、控えめのデザインやクラシックなチェック柄のシャツが揃っている。

モード愛好家には、躍動感のあるプリント柄がいいだろう。私自身のワードローブにもヴェルサーチェのバロック風の蔦プリントや、多色使いのドリス・ヴァン・ノッテンのタイダイシャツがラインナップしている。また、夏のある時期――プールやビーチリゾートにいるとき――は派手な柄も着たくなる。洋服を選ぶ時、男性は同じ間違いを犯しがちだが、太陽が照りつける季節くらい、間違いを恐れずに鮮やかな色柄を楽しみたい。おすすめはドルチェ&ガッバーナやヴァレンティノ。着こなしのコツはシャツ以外のアイテムをシンプルかつ無地に抑えること。ハリのある白いパンツなら、何でも合うはずだ。

大胆なグラフィックのシャツは受け付けないという人は、もう少しシックなモチーフの柄物に目を向けて欲しい。ニュートラルカラーのストライプ、ちょっとしたパイピングのディテール、プレッピー風のデザインなど、気負わず着られるものもたくさんある。いまだに根強い人気を誇るジョン・F・ケネディ風のスタイルを参考にして、フレッシュな白いリネンに挑戦するのも悪くない。いつも少しやりすぎてしまうという人も、パジャマシャツなら安心だ。ちゃんとしたシャツでも、パイピングが施してあったり、ラウンドカラーになっていたりするだけで、パジャマ風に見えてくる。夏の蒸し暑い夜には、これくらいラフで砕けたスタイルに挑戦してみてはいかがだろうか。