The Icons - Wide Leg Trouser

THE ICONS

THE WIDE-LEG TROUSER

デヴィッド・ボウイが愛し、ミック・ジャガーのステージ衣装のトレードマークとなり、最近ではハリー・スタイルズが人気を後押ししたワイドパンツ。これほど使い勝手のいいアイテムは、他にないのではないだろうか。スタイルが良く見える上に穿き心地の良いルーズフィットなワイドパンツは、スマートにもカジュアルにも、どちらにも対応してくれるスグレモノである。今回は『ハイプビースト』誌のエディター、エリック・ブレインにパンツを選ぶとき、彼が絶対ワイドパンツを選んでしまう理由と、なぜそうすることが賢い選択なのかを解説してもらった。

Wedding pictures
Blue cashmere sweater

「ハイウエストのワイドパンツは、穿き心地の良さと自分らしいスタイルを同時に満たしてくれる」―― エリック・ブレイン

子供の頃の私は、母とレディースウェアが並ぶ「トップショップ」に行き、“ネクストトレンド”ラインを一緒に見るのがとても好きだった (にもかかわらず、私が母に性的嗜好をカミングアウトした時は心底驚かれたのだが)。思春期にはレディースウェアの美しさとボディラインを際立てるデザインに一層夢中になったものだが、あの日々があったおかげで、今のファッションアディクトな私がいるのだと思う。

小さい頃から、私は常に美しく装った女性に囲まれていた。特に叔母のワードローブは全国の男性同性愛者が憧れるような素晴らしいものだったが、それを見る度に私は華やかな雑誌の世界に没入し、まるで学校の宿題であるかのように必死になってラグジュアリーブランドの世界を勉強したものだった。もちろん、実際の科学の宿題なんてそっちのけだったけれど。25歳になり、雑誌のエディターとしてファッションを多岐にわたって本格的に目を向けるようになった私は、今の私を作ってくれたすべての経験に感謝している。

さて、メンズウェアに話を戻そう。実のところ、一般的なエセックスの10代男子が夢中になっていたメンズの服は私には毒にも薬にもならず、いつもレディースウェアに限りなくシルエットの服ばかりを選んでいた。10年前のエセックスでは男子がスキニーデニムを穿くなら、それは女性向けの「トップショップ」ではなく、必ず男性向けの「トップマン」のものでなければならなかった。「トップショップ」のデニムの方がよりスキニーなシルエットになるとわかっているにもかかわらず、だ。

だから私には、その考え方が全く理解できなかった。男だってウエストが細くヒップが膨らんでいて、太ももがピッタリしていて、ふくらはぎにフィットしたシルエットの、くるぶし丈のデニム (まるでレギンスと見紛うような……!) を穿いたっていいじゃないか!そう叫びたいくらいだったが、当時は同性愛者であることをオープンにしていなかったし、もしレディースのスキニーデニムを穿いていたら、確実にいじめられていただろう。

今では穿かなくなってしまったものの、スーパースリムなパンツが私のパンツ愛を育んだ重要な要素であることに間違いはない。2020年代の私は、裾が風にはためくワイドシルエットでハイウエスト仕様のパンツばかりを穿いて過ごしている。

男性向けのハイウエストパンツの歴史は、およそ100年前、1920年〜1930年代にまで遡る。当時のハイウエストパンツはカマーベルトとセットで穿くのが通例で、ギリシャ神殿の柱のように太くて真っ直ぐな脚の中央にはピシッとセンタープリーツが入っていた。世の中の移り変わりとともにパンツはどんどん細くなっていくのだが、劇的に変化したのは1970年代の終わりから1980年代の初めだ。

Blue cashmere sweater

ハイウエストパンツは、デヴィッド・ボウイ、フレディー・マーキュリー、ミック・ジャガー、ルーニー・ウッド、ジミ・ヘンドリックスなど錚々たるアーティストに愛されたばかりか、彼らのユニフォームのような存在でもあった。私はハイウエストパンツの話になると決まってこの話を引き合いに出すのだが、これらのスーパースターたちは、グッチのアレッサンドロ・ミケーレ、セリーヌのエディ・スリマン、リック・オウエンス、サンローランのアンソニー・ヴァカレロなど、これまた錚々たるモード界のビッグネームにインスピレーションを与えているのだ。ハイウエストパンツを穿く度に、私は彼ら同様、自分の感性を磨いてくれた音楽を誇りに思い、かつて通い詰めたレディースウェアのショップに思いを馳せるのだ。

ハイウエストのワイドパンツは、ルックにパンチを効かせてくれるのが最大の魅力だ。存在感があって、着る人のプロポーションに魔法をかけ、背を高く見せてくれる。早く大人になりたいと思っていた少年時代の私には、背が高く見えることは絶対的な正義だった。最終的には身長182センチにまで成長したが、今でも自由にハイウエストのワイドパンツでプロポーションを変えて楽しんでいる。

ハイウエストのパンツは足長シルエットを作ってくれるし、ワイドなシルエットであれば裾が風にはためいて遊び心を感じさせてくれる。踵の高いブーツを合わせれば、レトロなスタイルに仕上げることもできる。ハイウエストパンツへの愛が膨らむにつれ、私の着こなしのバリエーションはどんどん広がっていった。中でもスニーカーとの相性は抜群で、特にアディダスのスニーカーか、リック オウエンスのチャンキーなブーツを合わせるのが今のお気に入りスタイルだ。

今、2000年代のトレンドが復活していることは、もちろん私も承知している。だが、ポストパンデミックを迎えようとしている今、もはやトレンドがどうこうと言っている場合ではない。私にとってハイウエストのワイドパンツは、穿き心地の良さと自分らしいスタイルを同時に満たしてくれる最高のアイテムなのだ。皆さんも、慣れ親しんだスリムパンツを手放す必要はもちろんないが、そろそろ視野を広げ、脚に余裕あるスペースを与えてあげてもよいのではないだろうか。